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優作の思考回路は単純だ。頼られた。ならやる。それだけ。そこに付随するものや危険は二の次だ。
(なんだ、あれ)
前方に騒ぎが起きている。消防車まで来ている。
「なんかあったんですか?」
心配そうに覗いているおばちゃんたちに聞いた。だいたい興奮している時の『おばちゃん族』は聞かなくたってあれこれ教えてくれる。
「寺田さんとこから火が出たみたいなんだよね。お蔭で家には入れないし。放水でもされたら火災保険だって下りないし。冗談じゃないよ、ホントに」
「それは大変だね! 寺田さんは?」
「姉弟で住んでるだけど騒いでる間に出てっちゃったみたいで。何考えてんだか。火元ならまず謝るのが筋ってもんでしょ!」
おばちゃんは本気で怒っている。
「いい姉弟だと思ってたのに、見損なったよ!」
(誰がやったんだ? いないって、桜華組が連れてったのか!?)
だとしたら桜華組に助けに行かなくちゃならない。近くの桜華組の事務所はどこだ? そんなことを考えている時に後ろからガシッと掴まれた。
「何しやがん」
後ろから口を塞がれた。
「俺だ、何も喋るな。どこにあそこの連中がいるか分かんないからな」
(カジさん)
口を塞がれたまま頷いた。
「よし、黙ってついて来い」
『姉ちゃん』の行方が気になる。くっついて行ってる場合じゃない、そうは思うがカジを怒らせると碌なことにならないことも知っている。
入ったのは近くのラーメン屋。カジは入り口が見える位置に座った。
「こんなとこで呑気に飯食ってる場合じゃねぇよっ!」
一応小さい声で文句を並べる。
「いいから注文しろ。お前が張られてるかどうか、それを見極めるんだ」
カジの目は後から入ってくる客をさり気なく見ている。優作は気もそぞろでラーメンを平らげた。
「大丈夫そうだな。電車で帰る。余計なことをごちゃごちゃ言うな」
口を開こうとする優作を制するように釘を刺した。
「車で来たんじゃねぇの?」
「パーキングに置いて来た。後で誰かが取りに来るだろ」
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