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「まぁ、可愛い坊やね!」
「ありがとうございます」
誰にでも笑顔を振りまく佐野優作、3歳。父賢作はサラリーマン、母美幸は専業主婦。団地に住むどこにでもある家族。いつか家を買って親子三人で暮らすのが夢だ。その頃には家族はもっと増えているかもしれない。
けれど母は今、違う理由でパートを探すのに必死だった。そのために優作の入れる保育園を探している。
「困ったわねぇ。どこもいっぱいなんですよ。働いているお母さんが優先だし」
「働きたくても子どもがいるから無理なんです。預かってもらえないと働けない、どうしていいか……」
「そうなんですよね。皆さん同じことで悩んでます。保育園が少ないからどうしようもなくて。空きがあれ出れば連絡しますね」
どこにでもある家族のはずだった、美幸の父がギャンブルに狂っていることを除けば。
母がいた頃はそうでも無かった。母が50代で他界したことが父には受け入れられなかったのだ。54の父は定年を待たずに退職し、残った家のローンを払うはずだった退職金をほとんどギャンブルに使ってしまった。
それからは何かというと金の無心をしてくる。最初は月に1、2万。やり繰りすればなんとかなる金額。美幸は賢作に相談することが出来なかった。父の在り方を賢作はひどく否定していたから。
自分だってそうだ。働けばいいのだ、自分一人分の生活費くらい。けれどいくら言っても父は聞かない。無心してくる金額も回数も増えてくる。
父の家に行って喧嘩をした。もう会いたくない、連絡もしないでほしい。
父とそうやって決裂した。
だが。
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