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チャイムが鳴って玄関に出ると30代くらいの知らない男が二人立っていた。
「平井博文さん、ご存じですよね」
「私の父ですが」
「じゃ、あんたが美幸さん?」
急にぞんざいな口調になった男の笑い顔に不安になる。
「親父さん、どこにいるか教えてよ」
「父とは会ってません。連絡も取り合ってません」
「困るねぇ、そんな嘘ついちゃ。ちょっと上がらせてもらうよ」
「困りますっ!」
だがそんな言葉が通じるはずもない。あっという間に入り込んでキッチンの椅子にどっかりと座ると、男はテーブルに紙を広げた。
「これ、覚えあるでしょ」
[借用証書] 額面は500万だ。
「これ……」
「親父さんに貸した金だ。一ヶ月の返済額8万を先月、今月と払ってこねぇ。その下を見てみろ」
『保証人 佐野美幸』とある。美幸は真っ青になった。
「なにも……なにも聞いてません! 名前、私は書いてないです、印鑑だって違います!」
「いいんだよ、払う相手が誰だって。違うってんならあんたの旦那に話したいんだけど何時に帰って来る?」
血の気が引いた。夫は普段理解はあるが、これは無理だ。
「父に、父に言ってください! 私たちには関係無いです!」
「おいおい、そうは行かねぇよ。月々遅れなく払うか全額一括で払うか。どっちかだ。あんた、こんな時間に家にいるってことは働いてないんだろ? パートでもして払えよ」
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