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「どうしてですか!」
「自分のケンカだけじゃない、人のケンカにまで突っ込んでくるような危ないヤツは面倒見たくねぇ」
「それは確かに間違ってました、訳聞かずに入ったのは悪かった」
親父っさんの声は厳しかった。世話になっていた時の声とはまるで別人だ。
「ヤクザなら掃いて捨てるほど見てきたし、そうなりたいんならいくらでも行き先があるだろう。好きなところに行け。お前みたいなのを面倒見る気はねぇ」
そのまま行こうとする親父っさんの前に立ちはだかった。
「謝ってるじゃねぇか! 一度の間違いも許さねぇってのか!? 俺は確かに馬鹿だ、頭が悪い、覚えも悪い。いいとこなんて数えるほどだ。けど、曲がったことは大嫌いだ。あんたの、いや、親父っさんの姿は曲がっちゃいなかった。俺は親父っさんに惚れたんだ!」
「……頼んでるのに喧嘩腰だな、お前は」
「いや、その、頼んでんだけど」
「俺がヤクザもんと聞いたんだろ?」
「聞いた。……です」
「それでカッコいいとか思ったのか?」
「違う! そんなんがカッコいいだなんて思ったことなんかねぇ! ヤクザになる気なんざ毛頭ねぇよ。ただ置いてほしい、あんたに面倒見てもらいてぇんだ。そしてあんたの、親父っさんの生き方ってのをそばで見たい!」
親父っさんがじっと優作を見た。その目を真っ直ぐに見る。
「ヤクザにはならねぇんだな?」
「ならねぇ。俺はそうやって生きてく気はねぇんだ」
「なら、なんで俺んとこにいたいんだ?」
「さっき言った通りだ、親父っさんの姿を見ていたい、三途川の家のやり方っての、もう一度考えてみたい。今の俺にはなにもねぇ。そしてきっとこの先もなにも持たないままただ生きていくと思う。それでいいのか考えてみてぇんだ」
「親父っさん、頼みがあります」
イチが脇に立って頭を下げた。
「俺にこいつを預からせてください。俺にはいい加減なヤツには見えません。だから俺が面倒見ます」
親父っさんはふっと笑った。
「好きにしろ」
こうして優作は三途川家の一員になった。
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