優作の物語(完)

50/74
前へ
/237ページ
次へ
   親父っさんが身辺の人間関係をきっぱりと整理つけたのは桜華組との争いが表面化してきたからだ。  桜華組は、ヤクを収入源の中心に、縄張り内ではかなりあくどい上納金の回収をしている。売春はもとより、警察への賄賂、不満分子への制裁。公然とした暴力団だ。そこに三途川組から人間が流れ始めた。もちろん利潤目当てだ。  いくつかの事務所からはヤクを扱いたいという上申があったが、勝蔵は頑として許さなかった。だから表向きは従いながら水面下で桜華組とつるんでいたのが東井を筆頭とする幾つかの事務所。勝蔵の一人娘、ありさを自分のものとしたかった杉野。杉野に借りが出来、身動きの取れなくなった板倉。他に小さいグループがいくつか。  それが公然と反乱を起こし始めた。その余波が堅気の若いもんに行くのを避けるために親父っさんはみんなを手離したのだ。  こうしてカジ、テル、洋一、優作はイチと共に三途川家に残ることになり、実質親父っさんの護衛を担当することになった。親父っさんの実動隊は鬼隊長柴山が率いる柴山隊。イチは柴山と連携を取りながらあちこちへ動いている。跡目候補でもあるから外に出る時にはピタリとイチにも護衛が付く。  そして、3年後。勝蔵はありさ一家にも家に近寄ることを禁じた。柴山のところからも何人かの人間が住み込み、その身内の女たちが千津子の下で賄や世話働きをする。東井たちが公然と袂を分かったのだ。  板倉のところには何度かカジが足を運んだ。昔のよしみがある。 「板倉さん、杉野への借りがあるというなら、親父っさんへの恩義はもっとデカいはずだろう」 「カジ……俺にもいろいろあるんだよ。親父っさんには申し訳ないと思っている。出来ればやり合いたくない。だが東井たちの言うことにも一理はあるんだ。ヤクザが綺麗ごとでやって行けるわけがない、組員の面倒見るのは結局は金だ」 「それは違う! それを親父っさんは体で見せてくれただろう!」 「もうな、そんな時代じゃねぇんだよ。カジ、今は任侠じゃない、組織としてどう生き残っていくか。つまり経営手腕が必要なんだ」 「確かに今時じゃない、親父っさんは。だがそれで救われたもんがどれだけいる? あんただってそうだろう」 「……時代は……変わるんだ。カジ。済まねぇな、次に会う時には互いに敵味方だ」   
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

286人が本棚に入れています
本棚に追加