優作の物語(完)

52/74
前へ
/237ページ
次へ
   拳銃の持ち込みに強固に反対したのは板倉だった。その板倉と対峙するのは、ここに来たばかりの時に板倉に世話されたカジ。互いに一歩も引かない。  杉野は勝蔵に向かっていったが、その間にイチが立つ。杉野は隠し持っていた拳銃を懐から抜いたが、素早かったのはイチだった。胸から銃を取り出す前に杉野を抑え揉み合いになる。銃声が鳴ってイチの体が揺らいだが、杉野もイチに腕を折られ戦意は喪失状態だった。 「イチっ!」 「だいじょ、ぶです、掠り傷です」  腕からぽたぽたと落ちる血をものともせず、親父っさんと背中合わせで4人に囲まれてる。家に泊まり込んでいた柴山の組の者の声があちこちから聞こえる。数十人が家の中で暴れているのだ。  そこに雪崩れ込んできたのは柴山本隊だった。 「親父っさんっ! どこだ!」 「柴山さん、ここだ!」  出血が止まらずそれでも親父っさんを守るために動きを止めないイチが叫んだ。横からデカいナイフを繰り出してきた男を止めるのが一瞬遅れ、イチは勝蔵を真正面から抱え込んで畳に伏した。振り下ろされるナイフがイチの背中に突き刺さる前に柴山がその男に襲い掛かった。  ある程度鎮圧し、池沢が走り寄って来た。 「イチさん! 穂高は!? 優作さんは!?」 「え!?」  
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

286人が本棚に入れています
本棚に追加