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優作は池沢を戻した後、穂高を探している時に見知った男と対峙した。先週も冗談を交わした豊野という年下の男。優作に助けられたこともあって仲が良かった。
「豊野、俺を止めようってのか?」
「優作さん…… 仕方ねぇよ、大将が右向けって言ったら向くしか無いんだ」
「お前の大将、杉野ってのが碌なヤツじゃないってのは承知してるよな?」
「分かってる…… 分かってるけど」
「若をどこにやった? お前、知ってんじゃねぇのか?」
「……裏切るわけには」
「裏切る? 若は堅気だ、組とはなんの関係もねぇ。9つの子ども相手に何する気だ?」
「だが跡目を継ぐ者は排除」
「跡目? ふざけんなっ! 堅気だと言っただろう! 跡目はイチさんが継ぐんだ、誰もが知ってんじゃねぇか!」
「それは表向きだって……」
「だから子どもを掻っ攫うのか? まだ10にもなってないんだぞ、お前女房の腹には子どもがいんだろ! その子を血濡れの手で抱くのかよっ!」
豊野の体から力が抜けた。
「若は……東井の事務所に連れて行かれてると思う……」
その肩をポンと叩いた。
「ありがとよ」
柴山が一人の傷だらけの男を親父っさんの前に引きずり出した。
「こいつ、杉野んとこの豊野ってヤツです。さっきのこと、親父っさんに言え!」
「わか、は、東井の、とこです、優作さんが、追ってます」
「一人でか! 柴山、カジ! 東井のところに行け、穂高を連れ戻すんだ! 優作を見つけろっ!」
ふらりとイチも立ち上がる。
「おれも、行く」
腕は女将さんが手早く血止めをしてくれている。
「お前はだめだ、医者が来る、腕を見てもらえ」
「親父っさん、若も守れねぇで跡目なんざ継げねぇです…… 柴山! カジ! 行くぞ」
外からはパトカーのサイレンも聞こえてくる。柴山は何人も引き連れて、イチ、カジと共に外に逃れた。
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