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優作は東井の事務所への最短のルートを走っていた。途中で追い越しているなら事務所を張っていればいい。シンプルに物事を考える優作はこういう時にその力を発揮する。迷わない、躊躇わない。
東井の事務所に近い暗がりの路地に車を止めて様子を窺った。
(いねぇ)
念のため、近くにある東井の駐車場、ちょっとした倉庫を走って覗く。
(やっぱりまだか)
他の場所を探しに行こうは考えなかった。杉野は汚い、そして傲慢だ。だから逆に豊野の言葉を信じられる。大事なことは腹にしまうより口に出して自慢するようなヤツ。
中から二人の男が出てきた。
「それにしても子どもを掻っ攫うなんてな」
「あれは逆恨みってヤツじゃねぇか? 三途川のお嬢に横恋慕してたからな、他の男の子どもだってだけで許せねぇんだろうよ。お嬢と一緒になってりゃ今頃は三途川組の跡目だ。それが堅気との間に出来たガキが跡目だってんだからな、我慢なんねぇのさ」
「だがサツにバレんだろ」
「そんなもん。どうとでもなる」
普段の優作ならとっくに飛び出して殴りかかっているだろう。だが今の目的は穂高の確保だ。
そうは待たずに車が来た。二人の男に挟まれた穂高が見えた。運転してきた男もいる。
(3人か。事務所ん中は何人だ?)
さっき2人出て行ったのだからそうはいないだろうと思う。
(他の事務所もきっと襲撃されてる。なら出払ってんじゃねぇか?)
穂高の命がかかっていることで優作は冷静になっていた。助け出さなきゃ意味が無い。
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