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走り去る男たちを追いかけるように車が走る。あっという間に車が男たちを追い抜いた。
(優作……)
今頃恐怖が湧き上がって来た。体が震える。動けない。優作が自分のために命を懸けているのが分かる。
『財布と携帯を……花んとこへ!』
「うん、財布、携帯」
やっと頭が優作の言葉を再生した。暗い中、草の間を探し回る。静かに探していたが、もう誰も自分を追って来ない。必死に探した。離れたところで携帯が手に当たる。その先の方に財布も落ちていた。それを掴んで穂高は走り出した。
(爺じのところも家も危ないって言ってた)
いったん立ち止まってアスファルトの上に寝転がった。
(花おじちゃんの番号)
ぐちゃぐちゃで整理されていないアドレス帳の中を探す。『花』その一文字が目に飛び込んできた。
(早く、早く!)
すぐに花が出た。
『優作? 何の用だよ』
剣呑な花の声が救いの声に聞こえる。
「花おじちゃん!」
そこで初めて泣き声になった。
『穂高? どうした?』
「ヤクザたちが、爺じんとこに来た、攫われて、逃げた」
『お前がか!?』
「うん、優作が助けてくれた、でも優作が……俺の、代わりに、追っかけられ、て」
泣くまいとしても喉の塊が上手く喋らせてくれない。
『どこだ、どこにいる!』
「分かんない、でも、お金渡されて、タクシーで花おじちゃんとこ、逃げろって、どこも危ないって」
『分かった! じゃ、高野台駅のデカい交番の前で下ろしてもらえ! すぐに行く!』
穂高は泣きながら走った。心の中で(優作、優作)と叫んでいた。
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