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途中でどこか隠れるところは無いかと目が忙しなく辺りを探る。だが穂高と別れた真っ直ぐな道からは極端に建物が遠くなった。
車のライトが行き先を照らす。振り向かなくても分かる、東井のところの追手だ。
(くそっ! こうなったら海にでも飛び降りて)
その足元に銃弾が跳ねた。車の止まる音がする。優作の足は止まらない。今度は耳の端を銃弾が掠めた。
「止まれ! 殺されてぇのか」!?
(バカ、言ってら。止まったら、なぶり殺しだろ)
けれど足も限界に近い。スピードも落ちている。波の音が近い。防波堤と言っても立派なもんじゃない。申し訳程度に海と陸地を隔てているだけ。この辺りの海水は濁っていてまるで波の吹き溜まりのようにいろんな物が流れついている。優作はその中に飛び込む気だった。
(あ!)
足の腿を撃ち抜かれ、その場に引っくり返った。
(く、っそっ、ちき、しょ)
そのまま這う、波の音はもう耳元に近づいている。
「止まれ! もう逃げらんねぇぞ、ガキをどこにやった!」
優作は地面の上でライトで顔も見えない男たちを振り向いた。
「へっ、なんのこった」
「三途川んとこのガキだ、どこに隠した!」
「分か、んねぇな、何を、言ってんのか」
「この野郎!」
「こいつ、連れ帰ってなぶるか?」
優作は笑った。
「やれよ! そんなんで、俺が喋ると、思ってんなら、な」
「おい、無駄だ。こいつ、優作だ。言わねぇとなったらテコでも言わねぇ」
「組長になんて言うんだよ!」
血が流れ続けているのがはっきりと分かる。
(若は、見つかってない……俺の役目は、果たしたんだ)
後は花が引き受けてくれるだろう。花なら一番いい方法を考えてくれるはずだ。
(くやしいが、あいつは、頭がいいんだ)
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