優作の物語(完)

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   お握りを食べさせながら真理恵が傷の手当てをしている。 (どうしよう、連絡)  池沢に電話をしていいものか迷う。今三途川家は修羅場だろう。 (哲平さん!) すぐに電話をした。 『どうした?』 「大変なことになった」  花は手短に話した。穂高を預かっていること、それを池沢たちに伝える手段が無いこと。 『お前のとこ、安全だと思うか?』 「どういう意味?」 『様子分かんないけど、万一池沢さんの電話の履歴を見られたら俺とお前んとこにかけてる頻度が高いと思う。嗅ぎつけられるかもしれない』 「……だてに刑事ものやヤクザもの、見てないね。そこまで考えなかった」 『万一ってことさ』 「どうしたらいい?」 『……河野さんのとこ、預けろよ。それが一番いい』 「あ、そうか!」 『それから池沢さんたちへの連絡だけど、俺がとぼけて掛けてみる』 「大丈夫なの!?」 『任せろって。様子によっちゃ俺たちも河野さんのとこから出社だな。楽でいいけどさ。取り敢えず穂高を連れて行け』  花は穂高に何も言わず、車に乗せた。 「どこに行くの? 爺じんとこ? パパやママのところ?」 「穂高、パパたちのこと、哲平おじちゃんが今調べてる。お前は心配の無い所に連れてってやるからな。そこで大人しく待ってるんだ」 「それ、どこ?」  答えずに携帯のナンバーを押して脇に置いた。スピーカーで音が車内に響く。 『花か? こんな時間にどうした?』 「すみません、今穂高を連れてそっちに向かってます。1日2日、預かってもらえませんか?」 『構わないが』 「訳は着いてから話します。池沢さんたちとは連絡取らないでください」 『……分かった。気をつけて来いよ』  河野の声に緊張が走った。 「ぶちょーさんのところ?」 「ジェイくんもいるよ。今夜はぶちょーさんのところに泊まるんだ。意味は分かるよな?」 「姿をくらますってヤツだね」 「そう」 「優作のこと」 「分かればすぐ教えるから。分かってるだろうけど、誰にも電話しちゃだめだぞ」 「うん」   
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