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カジが向かった家の40前後の女性だ。
「連絡するまでこの人たちを預かってほしい」
「はい。アパー」
「任せる。行き先を知りたくないんだ。じゃ」
車の音が遠ざかるのを待って、女性は3人を案内した。
「カジさん…… 三途川さんにはとてもお世話になったんです。お話は聞かずにおきますね。お連れするのはこんな時のためのアパートの空き部屋です。すぐ使えますからゆっくりなさってください。部屋に電話番号が書いてありますが、それは私の携帯に繋がります。必要なものがあったら言ってくださればご用意しますから。お食事はお済みですか?」
食欲どころじゃない。
「大丈夫です。世話になります」
話は全部池沢が受け持った。穂高のことがある。まだありさは動揺が残っていた。
「冷蔵庫には飲み物が入っていますがたいしたものはありません。いいでしょうか」
「ありがとう、充分です」
カギを渡されて中に入った。質素だがよく手入れされているのが分かる。カーテン、エアコン、布団、電子レンジ。必要な日用品も置いてあった。ホテルにあるような使い捨ての歯ブラシやブラシ。
「当分いても困らないな」
「隆生ちゃん……」
ありさはそこに座り込んでしまった。一気に力が抜けたのだ。
「穂高が無事だと分かったんだ、それだけでも良かった」
「そうね、まさか哲平のところに行ってるなんて思わなかった!」
「花、じゃないのか? 優作さんが連絡取るとしたら」
「優作…… どうしよう、隆生ちゃん、優作に何かあったら……」
「大丈夫だ、優作さんならきっと大丈夫だよ」
車の中で寝入ってしまった双葉を抱き締めながらありさは声を出さずに泣いていた。
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