優作の物語(完)

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   テルは厳しい顔をした。 「イチさん、優作は危ないらしい。行きそうな病院も分かったがどうしたもんか……」 「意識はあるのか?」 「いや、話の様子だとかなり……」  歩き出したところにカジの車が来た。飛び降りるなり叫ぶ。 「優作はっ!?」 「しっ! サツも来てる。優作は近くの病院に運ばれたよ。……危ないらしい。途中で蘇生させてたって言ってたがそこからどうなったのかも分からない」 「……乗れ」  カジは車を走らせた。  イチは勝蔵に連絡を取った。分かっていること、一部始終を話す。電話はすぐ終わった。 「テル、お前はその川北っていう病院に向かえ。なんとか様子を探るんだ。カジ、俺たちは東井の自宅に向かう。倅はバックレた、だから親父を捕まえるんだ」  テルは途中で下ろされてタクシーを拾った。イチたちはそのままスピードを上げて走り去った。 (東井も終わりだな。柴山さんが……その先は考えるの、やめだ)  柴山は幹部の中では一番の武闘派だ。柴山とその子飼いたちは皆荒っぽい。捕まれば無事な姿ではいられないだろう。  テルは行きかう看護師にそれとなく優作のことを聞いてみた。 「さっき海で打ち上げられた男を助けたもんの知り合いなんですが。どうなりましたかね、助かったんですかね」 「今、手術中なんです、ごめんなさい、急ぐので」  近くの椅子に座って、テルは手術室の明かりが消えるのを待った。   
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