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「穂高くん、眠れない?」
「……うん」
「そうか。おいで、ホットミルク作ってあげる。俺の作るホットミルクは美味しいんだよ」
ジェイの手をしっかり握って寝室を出た。明るい所に来ると穂高が泣くのを我慢しているのがよく分かる。
「ぶちょーさんは?」
「ぶちょーさんはね、朝早く出なくちゃならないんだよ。だからもう寝てる。俺は穂高くんが眠れるまで起きてるから安心していいよ」
またジェイの手をぎゅっと握った。そこにしゃがんでジェイは穂高を抱え上げた。
「他のものがいい? ココアとか。作ってあげるよ」
「ホットミルクでいい。ジェイくん……」
「なに?」
「優作…… 大丈夫だよね?」
「大丈夫だよ、優作さんだから」
穂高が小さくクスっと笑った。
「それ、変な言い方だ」
「そう? でも優作さんだよ? 元気じゃないとこなんて想像できないよ! また花さんに飛び掛かって投げられる。優作さんは強いんだから」
「……ジェイくん、やっぱりおかしいよ」
「そうかなぁ。そうだ、着替えとかね、花おじちゃんが明日持ってくるって。多分出勤前に届けに来ると思うよ。他に欲しいものがあればメールしとくけど」
「……いい。あ、ここ、辞書ってある?」
「あるよ、どんなのがいい?」
「国語の辞書がいい、あれ読んでると落ち着くんだ」
「待ってて」
ホットミルクを置いて、ジェイは本棚を見に行った。そこにはいろんな本がある。最近はある専門誌を集めている。ジェイは3冊の辞書を持って穂高のところに行った。
「どれがいい? この分厚いのは広辞苑。こっちは漢和辞典、こっちはことわざ類語辞典」
「これ、いい? 見たことない」
穂高はことわざ類語辞典を取った。
「いいよ、欲しかったらあげるよ。それは俺がずっと持ってた辞書だけど最近使ってないから」
「本当!?」
「俺はね、嘘ってつけないの。時々頑張ってやってみるんだけどなかなか上手く行かないんだよ。穂高くんがいい方法見つけたら教えて」
「本当のことを言わなきゃいいんじゃないの?」
「本当のことしか無いんだ、残念だけど。本当のことを隠したら何も無くなっちゃうから嘘も出てこないんだよね」
穂高が立ち上がって座っているジェイの胸に飛び込んだ。
「どうしたの?」
「ジェイくん……大好き! 大好きだよ、嘘なんか覚えないで。いつも本当のことしか無いってカッコいいって思う。……優作とおんなじだ」
穂高を抱き締めた。そのまま膝に乗せる。
「こうやってようね。ゆっくり眠るといいよ」
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