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『お前、バカだなぁ』
久保木の笑う顔が見えた。
『バカってなんだよ、分かり切ったこと言うなよ』
『ホントにバカだ』
優作は夢の中に漂っていた。まるであの海の波に漂っていたように。
どこかで銃弾がどうの、弾が残っているだの、こっちは貫通してるだの。
どうでもいいことが聞こえたり消えたり。
そのうち何も感じなくなった。
『せんせぇ、一緒に暮らすっていつから?』
『なんだ、そのつもりなのか?』
『だってそう言ったじゃないか』
『そうしたいがな…… ホントにそれでいいのか?』
『ホントに、って、俺、楽しみにしてたんだ。せんせぇ、俺を面倒見るって言ってたろ?』
『そうしたいよ……そうしたい。でもな、さっきから「だめだ!」って声が聞こえてくるんだ。お前には聞こえないのか?』
『誰だよ! 誰が邪魔してんだよ!』
『分からないか? 分からないなら連れて行くけど。ホントに分からないか?』
――とくん
どこかで聞こえる。
――とくん
(なんだ、これ)
――とくん とくん とくん
(俺の……心臓の音?)
うっすらと影が見えてきた。けれど影だけ。
自分よりちょっと小さな影。大きな影。ガッチリした影。
いくつもいくつもその影が右往左往する。
(鬱陶しい)
手で払おうとする。けれどその手を小さな手が握った。離そうとしてもどうしても離れない。どんどん強く握られる。まるでどこかに行くのを止めるように、その手が縋りついてくる。
(だれ? なんだ、このチビっこい手は……)
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