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その日から何人も面会に来るようになった。カジやテル、洋一は大っぴらに。イチは日を空けて、夜ひっそりと一度だけ。けれど親父っさんは来ない。
「今お前のところに来るわけには行かないんだ、サツが張り付いてるからな。東井のこともあるが、跡目相続の披露目式がある。何度も『申し訳ねぇ、優作に済まねぇと伝えてくれ』って言ってる。『許して欲しい』ってな」
イチの預かって来た伝言は優作を奮い立たせた。
「親父っさんに心配無いって伝えてくれよ。俺は大丈夫だって。若も来てくれた。まだしばらくは病院の中だけど、俺は親父っさんと若のもんだから」
「そうか。ありがとうな、優作。お前、足はどうなんだ? ちゃんと歩けるようになるのか?」
「分かんねぇ。なるようになるって」
天気が良かった。そろそろリハビリが始まる。
「やだなぁ、このまま病院、バックレたいなぁ」
独り言にしては大きな声だ。親父っさんのお蔭で特別室に入っているが、それも正直くすぐったい。
「誰がバックレるって?」
「花!? お前、何しに来たんだ?」
「何しにって、見舞いだけど」
大きな花束と花瓶を持っている。さっさと花瓶に水を汲んで来てその花束を活けた。
「お前、見舞いに花束?」
「定番だろ?」
「定番って、俺に嫌がらせか?」
「まあね」
花がニヤッと笑う。応じるように優作も笑った。
「優作、今日からリハビリなんだって?」
「ああ」
「だからバックレたいんだ」
「歩きから覚え直すって、ガキじゃあるまいし」
花は優作のそばに穂高の写真を置いた。
「これ……」
「この前穂高を預かったろ? あの後、河野さんとジェイのところにすぐ預けたんだ。一番安全だと思って」
「そうか! 俺、花に迷惑かけたかと思って気が気じゃなかった……いや! 俺はお前のことなんか心配してねぇ!」
花が苦しそうに笑う。
「いいって。そうか、そんなに気にしてくれてたんだ。嬉しいよ」
「バカ言えっ、お前なんかどうなったって」
いきなり花が優作を抱き締めた。
「な、なに、お前、俺はその、そんな趣味、ねぇし」
あたふたする優作から離れず花は呟くように言った。
「良かった……優作が無事で。危ないって聞いた時辛かった。帰って来てくれて嬉しい」
「花……」
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