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やっと体を離してもう一度写真を取り上げ優作に渡し直した。
「ジェイが写真を取ったんだよ。で、優作さんに渡してくれって預かって来た。みんなさ、優作のこと思ってるよ。あんまり自分のこと、バカだバカだって言うなよ。そんなの超えるくらいに優作はみんなにとって大事な人だってこと、もう分かれよ」
気がつけば泣いていた。花の言葉が本気だと伝わってくる。組んず解れつして来たからこそ分かることもある。
「俺……1人じゃねぇんだよな、今」
「優作の周りにはたくさんいるじゃないか、心配してくれる人。そういうの1人って言わないんだ」
花の中で『1人』という言葉ですぐ浮かぶのはジェイの顔だ。
「俺、1人じゃない……」
「改めてさ、友だちにならないか? 今までと変わらなくたっていいんだ。だって気持ち悪いだろ? いきなり肩組むっていうの」
「肩組もうとしたらどうせ投げるんだろ?」
『友だち』。この年になって初めてだ、友だちになってくれなんて。しかも相手は花。
「いい土産になったろ? それ見てリハビリ、頑張って。穂高の運動会、来年は優作も参加したら? PTAのリレーとかさ」
「俺が!? 出れんの!?」
「池沢さんも三途さんも歓迎すると思うよ。誰よりも穂高が喜ぶって」
「……この前、若が来た時にさ。『若』って呼ばないでくれって言われたんだ。『穂高』って呼んでくれって。簡単には変われねぇのにさ、そう言ってくれたんだ。これからは『優作兄ちゃんって呼ぶから』って…… 花、そんな大それたこと、いいと思うか?」
「いんじゃね? 本人がそういうんだから。それにさ、穂高は堅気だろ? 若なんて呼んだら周りが引くって。そうか、優作兄ちゃんか」
「お前が言うと気持ち悪い」
次は食べる物を持ってくる、そう言って花は帰った。
優作にはこれまで、それほどの夢は無かった。本当にただ生きてきただけ。
シンプルに考える優作だからこそ、辛いリハビリも乗り越えるだろう。きっと来年は穂高の学校でグランドを走っていることだろう。
(友だちかぁ! あいつと友だち。頭のいいお坊ちゃんなのに。俺を友だちにするって? ……友だち、か……)
少しずつ欲が出てくる。生まれたことのない、欲が。
(わ……穂高が恥ずかしくないような人間になりてぇ)
天井を見た。独り言が出た。
「久保木先生。俺さ、頑張るよ。もっと頑張る。頑張って頑張って、もっと頑張る!」
優作の心が晴れやかになっていく。幸せだ、初めてそう思えた。
――完――
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