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のんのと源の物語(完)
朝の当番。掃除をしながらのんのは去年のことを思い出していた。飲み屋で大学の友人をコテンパンに言い負かした時に見知らぬ年配の男から説教を食らった。
『お前さん、世の中に武器がたくさん転がってるっての、分かってなさるかい?』
『なんですか、俺に用ですか』
『まず、拳。ナイフ。そこらに転がってるものなら何でも相手を傷つけることができるんだ。だがな、それはいつか治る。忘れることだってできる。だが言葉の暴力。これはタチが悪い。特に『正義』とか『正しさ』とかが入り込んだ言葉はね』
男を追い払うことが出来なかった。その言葉には力が籠っていてとても押し返すことなど出来なかった。
『あんたの今振るった暴力は、まさにそれだ。あんたはこれからも自分の抱える『正義』ってヤツの上でお山の大将になってりゃいい』
なぜ自分にそんなことを言うのか。赤の他人じゃないか。そう思っても、口に出せなかった。
『自覚も無く責任も取れねぇヤツが、口先の屁理屈で世の中を甘くみるんじゃねぇ! 分かんねぇか、相手もあんたも、ただの『人』ってヤツだ。レッテルを貼れるほどの何様なんだ、おめぇは」
出て行った男の後を必死に追いかけた。そばに置いてくれと必死に頼んだ。そして、ここにいる。三途川勝蔵と言う男の家に。
(まさかヤクザの組長だとは思わなかったよな)
あの時のことを思い出してクスリと笑う。かなりみっともなかったと思う。
「や、ヤクザになるつもりで来たんじゃない」
正体を知っていっぺんに腰が引けたのんの。それを見て親父っさんが鼻で笑った。
『おめぇがヤクザに? 少なくとも俺はおめぇを組員にしたいとは思わねぇ。いいか、今のおめぇはヤクザにすらなれねぇってことを頭に叩き込んでおけ!』
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