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(あの時に充分堪えたと思ったんだけどな)
時が経って思い返すと自分があまりに稚拙で馬鹿げた男だったのかを思い知る。
(俺のしたことは……許されないことだった。親父っさんの言う通りだ。藤田、俺はお前に謝りたい……でも……)
そんな勇気は無かった。どう謝ればいいのかも分からない。まだ21。人生というにはあまりにもヒヨッコだ。イチやカジ、テルに比べると自分が幼く見えてしまう。
『自分に出来ることを考えろ』
ここでそう言われたが、出来ることが浮かばない。
親父っさんが若い男の首根っこを押さえて帰って来た。
「お帰んなさい!」
「ご苦労さまです!」
後ろから板倉が入って来た。若い男をじろっと見下ろす。
「親父っさん、そいつ俺にください」
「ならねぇ」
「ですが!」
「俺が『ならねぇ』と言っている」
「……はい」
イチとカジが目を合わせた。珍しく板倉が気が立っていた。ここでそんな顔を見せたことが無い。事務所にいる時の板倉だ。
親父っさんは出迎えた顔を見回した。仕事に行っている連中もいるから今日いるのはイチ、カジ、テル、増田、のんのだけだ。
「のんの」
「はい」
「こいつ、お前に預ける」
「親父っさん! のんのはまだ来たばかりです!」
板倉の抗議に親父さんはキツイ目を見せた。
「だからだ。ここに染まっちゃいねぇ、のんのに任せる」
のんのが改めてその若い男を見ると……
「子ども、じゃないですか」
「子どもなら連れて来ない、交番にでも放り込んでくる」
にべもない板倉の声。
「こいつ、一体何をやらかしたんですか?」
イチの質問に答えたのはやはり板倉だった。
「当たり屋だ。こいつ、車の前に飛び出して治療代と慰謝料寄越せって言ったんだ。じゃなきゃお巡りを呼ぶってな」
のんのは驚いてそっぽを向く若いのを見た。カジが親父っさんから男を受け取った。廊下を歩く時ひどく痛そうに足を引きずっている。
「お前、ケガしてんのか?」
「そいつ、足を出したんだよ、わざとな。だが計算がミスったらしい。ホントにタイヤが足を轢いた。骨折までは行ってないみたいだが自業自得ってヤツだ」
板倉の声が冷たかった。
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