のんのと源の物語(完)

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   向こうを向いているのを尻目にして、のんのは黙ってその横で食べ始めた。みそ汁の匂いが部屋に立ち込める。卵とウィンナーの炒めた匂いがそれに混じる。若者の腹がぐぅっと鳴った。笑いたいのを堪えてのんのは食べ続けた。腹の鳴る音が大きくなってくる。 「いい加減、意地張るのやめたらどうだ? 美味いぞ」  少し身動きしたがまだこっちを向かない。その鼻先に海苔を巻いたお握りを置いた。必死に我慢しているらしい様子が可愛い。  とうとう、のんのは箸を置いて笑い出した。 「頑張るな! たいしたもんだ、その意地っ張り。な、食ってる最中だけでいい、休戦しないか? 俺が作ったんだ、簡単だが美味いぞ、ホントに」  ほんの少しの間を置いて、若者はガバっと起き上がった。背中を見せたままお握りをパクついている。 「おい、喉につかえるぞ。みそ汁も飲め」  今度は開き直ったようにこっちを向いて、すごい勢いで食べ始めた。あっという間に消えていくから、のんのは自分のお握りも若者に差し出した。のんのの目を見る。 「食えよ、俺はもう腹いっぱいだ」  ちょっと頷くとそのお握りも掴んで食べ始めた。 「お前、いつから食ってないんだ?」 「おととい」 「金が無いのか?」  それには答えない。 「家、あるか?」  今度は頷いた。 「じゃ、家の人が心配するだろう。夕方までいろよ、その後送ってやる」  箸が止まった。のんのは話題を変えた。 「名前は?」 「……源太」 「俺は野々之男だ。言いにくいだろ? 『のののりお』こんな名前、俺は親を恨むよ。ここでは『のんの』って呼ばれてる」 「……すごい名前なんだね」 「漢字ならいいんだけど、ひらがなじゃ書きたくないんだよ。フリガナを書けって時にカタカナだと余計始末が悪い。『ノノノリオ』。締まりがない」  想像したのだろう、源太の顔に笑みが浮かんだ。   
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