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見透かされたような気がした。もう兄に殺されるのならそれでも仕方ないと。テルの言葉で自分がどこかでそう思っていたのだと気づいた。
「俺、死んでもいいって……しょうがないって……それで兄ちゃんの気が済むんならって」
「だから当たり屋を止めなかったのか? バカだなぁ。テルさんの言ったこと分かったか? 今日はゆっくり考えろよ。な、無理強いする訳には行かないんだと思う。でも俺は兄貴のところに戻ってほしくない。俺たちと一緒に帰ろう」
「あんなことしたのに……」
のんのは源太の額を弾いた。結構痛い。額を押さえた源太の背中をテルがどやしつける。
「これでチャラだ。そうだ、お前さ、財布覗いてみろ」
テルに言われるままに手に持っていた財布を開いた。目が丸くなる。
「いくらある?」
「1,266円……」
「のんのはあまり金を持ち歩かないんだよ。最初っから予算を決めてその範囲で買い物をしてくるんだ。こんなはした金持ってったって兄貴は怒り狂うだけだ」
いっぺんに源太の体から力が抜けた。今になって体が震える。
「これ……ごめん。ありがとう」
のんのが財布を受け取ってくれたのが嬉しかった。そのままのんのに抱きついて小さく肩を震わせた。
「お前らさ、今日は二人で飯食って来い。当番は俺が替わってやる。ほら、金」
テルが二万出してくれた。
「飯食って遊んで来いよ。のんのはパチンコとかは嫌いだよな。町ん中、源太を案内して来い」
「……テルさんの言ったこと、俺考える」
のんのから離れてきちんと言う源太にテルは頷いた。
「お前、真面目過ぎるんだよ。だから余裕が無いんだ。のんびりしてこい。のんの、頼んだぞ」
「ありがとう、テルさん」
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