のんのと源の物語(完)

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   玄関を開けるとイチが奥から出てきた。 「何かあったのか?」 「イチさん、親父っさん帰ってきてる?」 「さっき電話があった。そろそろ着く頃だ」 「じゃ、一緒に話聞いてくんないか?」  親父っさんが着く前に夕食の下ごしらえを済ませた。そこまでやって後は戻ったばかりの増田にやらせることにした。 「俺、昨日当番やったのに」 「次の当番俺がやるから」 「メニューはなに?」 「ハッシュドビーフ」 「それってのんのさんの定番でしょ。俺の方が上手く作っちゃったらどうします?」 「大丈夫だ。誰もそんな期待持ってないから」 「なんだよ、それ! 他は?」 「切ってある野菜使って適当に作れ。お前そういうの得意だろ?」 「はいはい」  親父っさんが落ち着いた頃にテルは部屋に行った。イチももう待っている。テルは今日あったことを全部話した。 「源太は納得したのか?」 「どうでしょう。また兄貴が連絡取って来たらどうなるか。戻らない源太にきっと腹を立てるでしょうから。ただ本人はよく考えてみるとは言ってました。今、のんのに源太を連れ回らせてます。携帯は預かってきました」  親父っさんに源太の携帯を渡した。小さく親父っさんが何度か頷く。 「カジ!」 「はい!」  すぐにカジが入って来た。 「お前、源太の家にイチを連れて行け。懲りないらしい、兄貴は」 「あんだけ痛めつけたのに」  イチがヤクザの顔になる。悪そうな顔だ。 「どうします?」 「確かあの辺りにはウチの『休憩所』は無かったな」 「ええ、そうですね」 「じゃ、家を取れ」 「幾らまで出しますか?」 「二本だな」 「はい。生で?」 「ああ。千津子に言え」  この辺りは親父っさんの世界の話だからカジたちにはよく分からない。イチは奥に行って女将さんと話している。  
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