のんのと源の物語(完)

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  「親父っさん、源太に何かするんですか?」 「源太に?」 「財布抜きましたから」 「あいつはもうしねぇよ。だから忘れろ」 「はい」  テルはほっとした。親父っさんを信頼してはいるが、怒られたら可哀そうだと思ったのだ。どうしてもほんの子どもにしか見えない。 「そんなに安心したような顔をするな。俺はそれほど理不尽に見えるってことか?」  その言葉にニヤッと笑う。 「たまにそうなりますからね」  イチが奥から出てきた。ビジネスバッグのようなものをぶら下げていた。 「カジ、行くぞ」  この頃、イチにはずい分貫禄がついて来ている。すっとカジは従った。  源太の家には明かりが灯っていた。荒っぽくカジが玄関を叩く。こういう時にチャイムは鳴らさない。ドンドン叩く方が効果的だ。案の定、ドアがそっと開いた。そこに靴を突っ込む。そのまま力任せにドアを引いた。 「わっ!」  兄は慌てて奥に逃げ込んだ。それをカジが追い、床に俯せに押さえ込んだ。 「お前、懲りねぇな。あいつは俺たちにくれたんじゃなかったのか?」 「おれは、なにも」 「何が『なにも』だ! 甘く見やがって!」  その間に靴のまま上がって来たイチが押さえ込まれた兄の目の前にガタン! と椅子を置いた。 「ひっ!」 「俺と会うのは初めてだな。俺はイチと言う。その筋の組のもんだ。今日は話をするために来た。お前、この家を俺に売れ」 「え、家を?」 「繰り返すんじゃねぇっ!」  すかさずカジが腕を捩じり上げる。 「おい、カジ。売主に乱暴は止めてやれ。これはスマートなビジネスだ」  乱暴に体を引き上げて床に座らせた。 「これで対等だな?」  イチが有無を言わせないように、椅子から見下ろす。床に正座させられた兄はイチを見上げて仕方なく頷いた。  
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