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「さて。ここは幾つ抵当に入ってる?」
「幾つって……」
「銀行ローンは終わってるのか?」
「親父が死んだときに」
「ローンを組んだ時の保険で完済か」
「はい」
「他には?」
「なにも」
イチの顔付が変わった。
「嘘言うんじゃねぇ、あのガキがちっと働いたくらいで4年も暮らしてこれるはずがねぇ。どこに借りた? 担保にするもんはこの家くらいなもんだろ」
「あの、少し借りてて」
「サラ金か? 振り込みの紙を持って来い」
這いつくばるように隣の部屋に行って引き出しから何枚かの紙を掴んできた。その間、じっとカジが見張っている。
「これです」
観念したのか、素直で大人しい。
「こりゃぁ……」
イチが含み笑いをした。
「イチさん?」
カジが聞く。
「笑えるよな。これ、東井んとこでやってる金融屋だ」
「はあ?」
その場でイチは電話をかけ始めた。
「イチだ。お前んとこの客で『東富雄』ってのがいるよな。調べてくれ。他でも借りてる、お前んとこの組で」
「あの……富雄は父です。俺は謙一って言います」
「『東謙一』だと。おい、生年月日は?」
謙一の生年月日からすぐに割り出せた。
「幾ら貸した?」
200万と150万だった。
「それ、俺んとこに借用証書を回してくれ。ウチでもらう。親父っさんの指示だと言ってくれ。もう取り立ては無用だ」
あっと言う間に話がついたが、謙一にはよく分かっていない。
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