のんのと源の物語(完)

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  「今度のお前の借金の相手は俺だ。今お前に350万貸してある。今この場で払えるか?」  青い顔で謙一は首を横に振った。 「どうやって返す? 源太に当たり屋をやらせるってのは抜きだ。あいつにはウチの方で働いてもらうからな」 「じゃ、あの、働くので」 「舐めてんじゃねぇぞ! 働くだ? たった今働いたって給料が入んのはいつだ!? それまで返済しねぇってのか!? カジ! その辺から白い紙持って来い!」  ビリビリと響くようなイチの声に、謙一の腰が完全に抜けた。わなわなと震えている。 (イチさん、すげぇ…… これがヤクザか……)  ノートがあったからそれとボールペンをイチに渡した。イチがペリッと一枚破く。 「そこに言う通りに書け」  ごくりと唾を飲む音がした。 『私、東謙一は須藤一郎様に本日付で350万円の借金をしました。返済は1ヶ月15万円。36回払いにて返済いたします。遅延した場合には次の返済日まで利息2倍にてお支払いいたします』 「今日の日付、書け」 「こ、これ、返済、無理です、こんな契約してないです、無茶」 「なんだ? 借りるだけ借りて返さねぇつもりか! お前は今金融に借りたんじゃねぇ、俺に借りたんだ! 書かねぇならその腕へし折るぞ! カジ!」  カジの手が謙一の左手に食い込んだ。 「か、書きます! 待って、書くから!」  左手を取られたまま日付を書かされる。イチが台所から包丁を持って来たのを見て、カジ共々蒼褪めた。 「な、なに……」 「慌てんな。指出せ」 (え、詰めるつもりか?)  カジの方が慌てている。だがイチは親指の先をチョンと切っただけだった。 「それで母印を押せ」  いっぺんに力が抜けて後は言われるがままに母印を押した。 「うわっ、こいつ漏らしてる!」  殺されるとでも思ったのだろう。   
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