テルの物語(完)

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   高校に入るとそこには何人かの同級生もいた。相変わらずくだらないことを言われるが、新生活だ。きちんとしていれば分かってくれる人はちゃんといる。友だちが増え始め、嫌がらせをする一部の学生は逆に肩身が狭くなり始めていた。  そんな順一を好きだと打ち明けてくれる子がいて、つき合うようになった。高校1年の時だ。いつも堂々としている順一が好きになったと言われた。  そして標的が変わった。順一に何をしても何を言っても無駄だ。そのグループにもくだらない女子がいて、つき合っている女の子に昔順一がされていたようなことが起きるようになった。体育の授業から帰ってきて着替えると制服が生ごみ臭い。引き出しから異臭がする。椅子にべっとりとバナナの皮が張り付いている。  彼女は耐えられなかった。無理だと順一に泣いて謝った。順一は仕方ないと笑って別れた。本当に仕方ない…… だが彼女へのイジメは止まなかった。とうとう順一は相手とケンカになり、それが大ごとになり彼女は転校した。その頃から順一の中で何かが崩れ始めた。  嫌がらせが堪える。全てが気になり始めた。父にそれとなく聞いてみた、転職を考えてみることは無いのかと。 「俺は恥ずかしいことをしてるわけじゃないからな」  単純明快な答えをする父は、順一の状況を全く知らない。知っていたらきっと学校側に抗議もしていただろう。だがそうはならず、順一は少しずつ陰にこもるようになっていく。自分のせいで誰かが…… 彼女が傷ついたことが辛かった。それが怯えに変わり、人を自分に寄せ付けなくなる。  嫌がらせの度合いはさらにひどくなる。  ある時、体育館の用具入れの掃除をしている時に後ろから突き飛ばされ、奥に頭から突っ込んでしまった。気が遠くなる。笑う声がいくつも重なって聞こえた。上半身を脱がされた。朦朧とする。痛みが走った、背中に腕に。そのまま放置された。  次の朝、順一を見つけた女子が職員室に駆け込んだ。順一の両親からも帰宅していないと連絡があったばかりだ。すぐに救急車で運ばれ手当てを受けた。  脳震盪。そして背中と左右の上腕部に深い切り込み。 『ゴミや じゅんいち』 「傷が深いですから痕が残るかもしれません。ですが、うっすらとなるでしょうから文字と言う形では残らないと思いますよ」  両親にはなんの慰めにもならない。父は仕事を辞め、転職した。   
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