テルの物語(完)

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   父に対して負い目を感じた。真っ直ぐ目を見られなくなった。傷は体に残った。まだ『ゴミや じゅんいち』という文字がはっきり読める。背中はどうにもならない。だが鏡を見なくても読める上腕部の文字。  父の『済まん、悪かった』という言葉が順一を苦しめた。父を責める気なんかずっと無かった。だが父は順一に負い目を感じ、順一は父に。家庭がギクシャクし始める。母はどうしていいか分からず、泣くことが増えた。  いたたまれなかった、何もかも。何が悪かったのか何度も考えたが分からない。どうしたらいいのか。どうして自分が、彼女が、両親が泣かなければならないのか。  突然、一気に天頂部がら髪が抜け始めた。ストレス性の脱毛、薄毛。それがまた嘲笑のネタになる。誰もが自分を笑っているような気がした。  タイミングが悪かった。階段を下りている時に上から笑い声が聞こえた。見上げると何人かの男子と目が合う。上から見下ろした自分の頭を笑ったのだと思った。  駆け上がって殴りかかった。周りが止めても暴れた。2人が階段から落ち、それでも叫んで暴れ続けた。大騒ぎになり誰かが警察に通報してしまった。それが誰なのかは分からない。あの連中なのか、一般生徒なのか。学校とすれば警察沙汰にはしたくなかったのだから。  到着の早かったパトカーはやっと教師から引き剥がされた順一の前に立った。怒りが渦巻いていた。だから叫んだ。 「どいつもこいつも殺してやるっ!!」  階段から落ちた一人は骨折。一人は打ち身。二人はたまたま冗談を言った友達の言葉に笑っただけだった。順一への嫌がらせとは一切関係無かった。  調査が入りイジメの事実は明るみに出たが、停学処分になっただけ。一部は転校していったが、停学に何も感じない者は残った。  いったん留置所に入れられた順一は少年鑑別所に送られた。そこで少年審判を受ける。  有利だった。学校側は状況を説明し、怪我をした被害者2人は示談に応じると言い、それも多額ではなかった。順一の状況は知れ渡っており、治療費だけを請求された。周りの証言からも非は相手にあると立証されていた。  だが、たった一人、順一を許さなかった者がいた。それは、順一だった。   
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