テルの物語(完)

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   鑑別所で諭された。 「君の状況はみんな分かっているんだ。こんなことを言ってはいけないだろうが、今回のことは事故であるとも言える。君は自分のしたことを反省すればいいだけだなんだ」  順一のしたこととは、暴れたこと、怪我を負わせたことだ。 「それは悪かったと思ってます。関係の無い人に怪我させました」  その言葉にほっとするのも束の間、次の言葉で厳しい顔になる。 「でも、仕返しが悪いことだと思ってません。ここを出たら転校したヤツでも追いかけて殺してやります。悪いことだと思わない、絶対に復讐してやる」  両親の説得、教師や友人の説得も効果は無かった。特に父と話した後は罪悪感から顔つきまで変わっていた。 「会いたくないんだよ、父さんには! もう来ないでくれ! 俺のことなんか忘れればいいんだ!」  後から自分のことが発端でまた父が転職せざるを得なくなったと聞き、さらに態度が硬化した。  全て自分が悪いと思うから、罰が欲しかった。許すと言うならあの連中を殺しに行く。  弁護士には何も話さなかった。心を閉じた。  処分の結果が出るのは早かった。少年院。児童自立支援施設への送致は出来なかった。出入りが自由で比較的制度の緩やかな施設だが、出れば殺人をすると公言する順一には不向きとなった。  そこで半年を暮らした。イジメが無ければ真面目できちんとしている順一は模範生だ。母が泣いて頼みに来た、もう人を殺すなどと言ってくれるなと。父は来ない、順一が会うことを拒んだから。  順一はとっくに復讐の気持ちなど捨てていた。空しいだけだと思う、それで何か救われるのかと。ただ父に会うことは出来ない。勇気が無かった。  
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