カジの物語(完)

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  「梶野さん」 「はい」 「話は聞いてるのかい?」 「何も……アパートを引き払ったっていうのと、今日からここに住めって……」 「それだけ?」 「はい」 「まったく、あの唐変木! しょうがない、よく聞くんだよ。今日からここがあんたの住まい。田久保のところの社員を庇ってケガしたんだってね。借金があってウチの人が肩代わりした。あんたが一生懸命仕事してたっていうのも聞いているよ。治療費は全部会社が出すから当面のあんたの心配は生活費ってことだろ? ここにいればそれは心配ない。だから体をしっかり治しな。いいね?」 「……ありがとうございます、こんなによくしてもらって……でも、ゆっくりはしてらんないんです。働いて家族に楽をさせたい、金を作んなくっちゃなんないんです」  奥方がにっこり笑う。笑顔がきれいだと思った。 「早苗ちゃんと勇太のことかい? あの子たちはここで面倒見てたんだよ。あんたが渡してたお金は、早苗ちゃんがほとんど返済に充ててくれたよ、あんたには内緒でね。だから借金はずい分減っている」 「ここで…… じゃ、今ここに!?」 「いないよ。あの子は実家に帰した」 「な、なんで」 「母親がね、倒れたんだよ。父親一人だけじゃやっていけないってんで行かせた。向こうに行けば食べるのにも住むのにも困らないって話だ。でもあんたを行かせるわけにはいかない。いや、行きたきゃ行けばいい、別に監禁するわけじゃ無し。けどそれは今のあんた達にいいとは思えないんだよ。とにかくまともに動けずに行けばまた早苗ちゃんが苦労するだけだ。そこを考えることだね。篤!」 「はい!」  篤はすぐに顔を出した。 「部屋に連れてっておやり。今日はゆっくり休みな。2、3日よく考えてまた話そうじゃないか。あの人が早苗ちゃんから引き受けたんだ、引き受けたからにはウチの人間だと思っているよ。いいね?」   
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