ナッチの物語(完)

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  「帰ってきたらお母さんが倒れていたんだね?」 「はい」 「玄関は開いてた?」 「はい」 「お父さんは仕事?」 「はい」 「何か見なかった?」 「何か聞かなかった?」 「何か無くなってる物はないかな?」 「変な電話がかかってきたりしてなかった?」 「今朝のお母さんに変わったところは無かった?」 「最近、何か気づいたこと、ないかな」 「なにを……」 「ん? なんだい?」 「なにを答えれば満足ですか……」 「満足って、大事なことを聞いてるんだよ」 「俺、今大事なことは母さんのそばにいることです。どうでもいいよ、そんなこと」 「お母さんのケガはたいしたことないんだよ。心配かもしれないけど、先生に任せるんだ。脳震盪を起こしてるだけだからね」 「血が、流れてたんだ」 「頭の傷は見た目はひどく見えるけどそれほどのもんじゃないんだよ。そんなに心配しなくても大丈夫だか」 「あんたの母さんじゃない……あの血は俺の母さんの血だよ、あんたが何も感じなくたって、俺の母さんの血だよ!」  刑事は帰って行った。 『落ち着いたらまた話を聞くから』 (落ち着いたら? なにが? 玄関開いてて入ってきたら血が流れてて母さん倒れてて意識なくて救急車呼ぶのに手が震えて呼んでも返事が無くて……なにが落ち着くんだよっ!!)   
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