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電話を受け取ったのはイチだった。
「なんて言ってんのか分かんねぇよ! もうちょっときちんと喋れねぇのか!」
『だから、いてっ! この野郎! 大人しくしろっ』
『ふざけんな! 手、放せよっ』
「おい、優作! 一体なにやってるんだ?」
電話の向こうで騒動が起こっているのは確かだ。
『スターラックってパチンコ屋で……わ! 噛みつきやがったっ』
そのまま切れてしまった。
「なんの騒ぎだ?」
舌打ちして出ようとしたイチに親父っさんが声をかけた。
「優作ですよ。あいつスターラックでなんかやらかしたみたいで」
「その電話、店員からか?」
「いえ、本人から。ケンカじゃないかって思うんで行って来ます」
「しょうがねぇな…… 俺も行くよ。あそこの店長が真面目にやってるか気にかかってたしな」
靴を履きながらイチがボヤく。
「親父っさん、何度も言うけどウチはヤクザですよ。慈善活動家じゃない」
「お前は固いんだよ、頭が。どんなヤクザだろうが地元では世話になってるのにちげぇねぇんだ。俺がヤクザをやめねぇのは、やめちまったら路頭に迷うろくでなし連中が何すっか分かんねぇからだ。その心配が無きゃとっくにやめてるよ」
「それ、桜華組の萩原が聞いたら喜びますよ」
桜華組と言うのは対抗勢力だ。組長の萩原とは昔から仲が悪い。先々代の桜華組は今の三途川組とは逆だった。つまり三途川組を悪とすれば桜華は善。それが今では入れ替わってしまっている。勝蔵の寝首を掻こうと虎視眈々と狙っている組織だ。薬、闇金、そんなのは表の仕事と言ってもいい。裏じゃ臓器売買にも手を出しているんじゃないかと、この世界では売り出し中の悪の巣窟だ。
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