洋一の物語(完)

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  「姉さんが危ないんだな?」 「おれ、どうしたらいいか……失敗したし、連絡、入れてないし……」 「お前に命令した組員はどこの組のヤツだ?」 「それは……」  事情を話はしたが、洋一は桜華組の名前を出さない。 「言わなきゃ守りようがないだろ!」 「そんなこと、できんの!? 相手はヤクザだよ!?」  テルが黙って出ていくのを見て洋一は自虐的に笑った。 (少ない給料でもあのまま我慢してりゃ良かったのか? 貧乏人は貧乏に暮らせってか?)  戻って来たテルは一人の男を連れてきた。そんなに年が行ってないのに貫禄がある。 「俺はイチって言う。だいたいの事情は聞いた。お前、どうしたいんだ? 動けねぇんだ、姉さんを助けらんないだろ? もう2日寝てるんだ、今頃どうなってるかお前に分かんのか?」 「あんたら、なんだよ! わけ分かんないヤツに言えるわけないだろっ」 「三途川組って聞いたことあるか?」 「あるよ、それくらい」  桜華組が目の敵にしている組だ。 「俺はその組のもんだ。悪いようにはしねぇ、言ってみろ」  洋一の顔から血の気が引く。よりによって、三途川組に拾われたのか…… 「その顔からすると、桜華組か? そんなとこだろ、あそこは悪どいからな」 「何もしないでくれっ! 俺を追い出してくれりゃいい、事務所に帰る、あんたらに助けられたことは言わないから!」 「それじゃ姉さんはどうなるんだ?」 「どうって…… あんたらには関係無いだろ……」 「助けてやるって言ってるんだ。ついでに桜華組と手を切らせてやる」 「そんなこと……」  出来るわけ無い、そう思った。   
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