洋一の物語(完)

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   そこに優作が顔を出した。 「よっ! どうだ? 少しはマシか?」  怪訝な顔をする洋一にテルが教える。 「お前を助けたのはこいつだよ。土砂降りの中で引っ繰り返ってたお前を見つけたんだ」 「……ありがとう。でもそのまま捨てといてくれても良かったんだ」 「なんだと!?」 「待てって! こいつにも……そう言や名前聞いてなかったな」 「……洋一」 「洋一にもいろいろややこしい事情があるんだ、許してやれ」 「誰だってややこしい事情ってのを抱えてるよ。だからここにいるんだろ!?」 「そりゃそうだけど。今は勘弁してやれよ、体に障る」 「あ、飯持って来ていいのか見に来たんだった」 「バカ、なら順序が違うだろ」  優作が廊下に出るのと一緒にテルも出た。 「なんだよ」 「桜華組に借りがあるらしい。ホントは抜け出したいんだろうが姉さんが捕まってるって話だ。交代でそばについてろってイチさんからの指示が来てる」 「桜華組って…… 大丈夫なのか?」 「後はイチさんが動く」 「そうか。分かった、飯は俺が食わせるよ」 「じゃ、ちょっと任せていいか? 俺は洗濯もん片付けてくるから」 「いいよ、俺が拾ったんだ、面倒見てやる」 「怒るなよ」 「もう怒んねぇよ」   
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