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洋一は天井を見ていた。いや、姉の顔を思い浮かべていた。姉は自分のことはいつも後回しで、洋一の反抗期で も辛抱強く面倒見てくれた。叔母たちに気遣ってそれこそ使用人のように言いつけられたことを文句ひとつ言わずに……
(姉ちゃん…… 無事だよな? 必ず戻るから)
テルと交代した優作が幾つかの椀が載ったお膳を持って中に入った。
「内臓平気だって聞いたけどさ、熱が結構あるって言ってたから消化のいいもん作って来た。後で好き嫌い言ってくれ」
さっきの怒りはどこに行ったのか、優作は世話を焼き出した。椀のフタが開くとすごくいい匂いがする。
「俺は意外と料理は上手いんだ。動くのはまだまずいから食わせてやる」
「いいよ、自分で、食える」
「いいって、じっとしてろ。熱いのは平気か?」
「う、うん」
「よし。一応メニュー言っといてやる。かゆはダシを使った卵がゆだ。味噌汁は上澄みだけにしといた。カツオ節削ったんだぞ、残すなよ。後は煮物だ。里芋とニンジンと鶏肉を柔らかく煮た。迷ったがシイタケは止めた。キノコって消化悪いしな……どうした?」
「俺の……ために?」
「他に誰がいるってんだ? 熱出してんのはお前だけだ」
「名前、教えてくんないか?」
「優作。年は23だ。そう言えばお前、幾つだ?」
「20歳」
「うわ、老けてんな! ほとんどタメかと思ってた」
「優作さん、ヤクザになるの?」
「分かんねぇ。先々のことを考えろって言われるんだけどさ、ここの居心地が良くって考える気になんねぇんだ。さ、食え」
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