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頬の横にタオルを敷いて木の匙でかゆを食べさせてくれる。みそ汁の上澄みは吸い飲みで。時間をかけて煮たのだろう、煮物はすごく柔らかい。味付けは薄くしてあって本当に病人食だ。
口に運んでもらううちに涙が滲み始める。目を閉じると冷たいタオルがその上に載った。
「熱高いせいだ。俺もそうだよ、寝込むと涙っぽくなっちまうんだよな」
分かってくれている、そう思った。自分の気持ちを。声が漏れてしまう。寝込んだことも無い優作は立ち上がった。
「食うの、ちょっと休憩だ。俺、トイレ行きたくなったからよ」
優作は廊下に出て襖を閉めた。そこに胡坐をかいた。中から嗚咽が響いてくる。
(お前もか? 他人のあったかみってヤツを知らねぇんだな)
たとえもらい泣きであっても、泣かないことに決めている。優作は腕組みして声が治まるのを待った。
10分もして治まったらしいと襖を開けると、洋一は座って煮物の残りを食べていた。
「おい、無理するな」
「美味くて……」
笑った顔は年相応に見えた。残さずに全部食べた洋一に薬を飲ませた。
「良かったよ、食えて。なんかしてほしいことあるか?」
寝かせられた洋一は優作を見上げた。
「優作さん。俺、帰んないとなんないんだ。頼むよ、行かせてくれよ」
「だめだ。それはならねぇって言われてる」
「姉ちゃんが危ないかもしんないんだ、寝てなんかいらんない。飯食ったしもう動けるから」
「ならねぇ。必要なら俺が代わりに動いてやる。だからお前は寝とくんだ。して欲しいことを言えよ」
洋一は口を閉じた。
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