洋一の物語(完)

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  「入るよ」  医者だ。園田という。40くらいでちょっと白髪交じり。メガネをかけている。肩が張っていて少し痩せ気味。やたら声が低い。病院に行くわけに行かないケガ人は皆この先生に世話になる。 「食ったか?」 「出したもんは全部」  中身と量を確かめると園田がにやっと笑った。 「よく面倒見てるようだな。お前もたまには寝込めよ」 「悪いな、藪医者にかかる気はねぇんだ」 「詰まんないヤツだな」 「どうなんだよ、こいつ」 「慌てるな」  布団を捲って脇腹の傷を確かめる。洋一は大人しくしていた。 「動かしたのか? また出血している」 「さっき飯食うんで起き上がったくらいだ」 「ばか、体を起こしちゃダメだ」 「俺が勝手に、座ったんです、優作さんは……」 「分かった。とにかく大人しくしてろ。出血が止まらなかったら病院に入れなきゃならなくなる」  注射をされると眠くなってきた。 「ねる、わけには行かないんだ……」 「起きててもらっちゃ困る」  とうとう洋一は優作に縋った。眠くて堪らない。 「ねえちゃん、たすけて……西元木町、2ちょうめ、5ばんち、てらだ、はる……」 「分かった! 安心して寝てろ。ちゃんとここに連れてきてやる」  
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