洋一の物語(完)

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  「医者!」 「園田先生と言え」 「誰かここに寄越すから。俺はちょっと出かけて来る」 「一人で突っ走るなっていつも言われてるだろう」 「俺が頼まれたんだ、洋一に」  それだけ言うと廊下を走った。 「テルさん!」  台所のテルに声をかける。 「俺、ちょっと出てくるから洋一を頼む!」 「おい! 優作!」  動き出したら止まらないのが優作だ。舌打ちして洋一の部屋に行った。 「どこ行ったか聞いてます?」 「こいつの姉さん助けに行ったよ。頼まれたのは俺だとか言ってな。相変わらず猪みたいなヤツだ」 「あのバカ…… 桜華組が絡んでんですよ」  園田の眉間にしわが寄った。 「下手するとケガじゃ済まないぞ」 「イチさんが動いてるってのに…… 先生、今日は忙しいんですか?」 「ここだけだよ。泊っても構わないぞ、その代わり」 「分かってます。酒出しますよ、美味いもんと一緒に」  優作の心配がある。無事に帰って来るまで園田にいてほしい。 「イチさん、優作が行っちまった」 『どこに?』 「これから言うとこが洋一、あの若いのの住所だ。優作は姉さんを助けに行ったんだ」  イチの返事は短かった。 『すぐ向かう』  
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