洋一の物語(完)

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   今日は親父っさんは板倉を従えて東井の事務所に行っている。イチはそこで親父っさんにあれこれ相談していた。 「テルからです。優作が突っ走りました。さっきの若いのは洋一っていうらしいです。でその姉さんを助けるとか言って」 「要するに事をややこしくさせに行ったんだな?」 「そんなとこです」  親父っさんは少し考えた。 「相手が桜華組じゃ俺が下手に動くわけには行かねぇ」  今は『三途川組』を背負っている三途川勝蔵の顔になっている。 「お前にもあまり前面に出てもらっちゃ困る。東井」 「はい」 「お前んとこのあまり顔を知られてない頭のまともなヤツを貸せ」 「みんなまともですよ」  東井が苦笑を浮かべながら答える。後ろに立っている男に小さい声で指示を与えた。すぐに男が入って来た。 「こいつ、伴野(ばんの)っていいます。職を転々としてここに来ました。役に立つと思いますよ」 「そうか。伴野、イチの指示に従え。イチ、全部任せる。組の名前は出すな」 「分かりました」  伴野は28だ。普通の会社員、バーテンダー、宅配業、塗装工、自動車修理工場その他もろもろ。呆れるほどの経験がある。 「ある女を助ける。その弟が桜華組のヤクの仕事に絡んでいた。今そいつはウチがかくまってるが、多分姉さんの方は桜華組に見張られている。それをあまり面倒を起こさずに(さら)って来るんだ。姉さんは全く事情を知らねぇだろう。だから博打になるな。覚悟できるか?」  伴野は余裕のある笑顔を見せた。 「覚悟もへったくれも。親父っさんがやれと言ったんだ、やりますよ。もう一人若いのを連れてってもいいですか?」 「そいつは大丈夫なのか?」  伴野は頷いた。   
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