テルの物語(完)

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テルの物語(完)

   八木順一、15歳。中学を卒業し高校へ。そこでやっと自由になれると思っていた。もう解放されるのだと。  小学校の後半からイジメに遭うようになった。最初は軽いものだったが中学になってエスカレート。  原因は父親の職業。ゴミ収集員だと言うこと。順一の父は明るくて気さくで、よく遊んでくれる大らかな人だった。近所の子どもにだって人気があった。大工仕事など、よくご近所に手伝いに行ったものだ。母とは恋愛結婚。仲のいい夫婦。  小学校5年の国語の時間、『お父さんの仕事のことを書きましょう』という作文の宿題が出た。順一は父に仕事の話を聞きながら色々書いた。大変なのは台風の中でも回収をして回ること。ゴミ袋の中身がひどくて、時には頭から生ごみのしぶきを浴びることもあること。でも職場にはシャワーがあるから帰りにはきれいになっていること。  それが最初は好奇心の的になり、あれこれ聞かれ、あれこれ言われた。その内それが蔑みに変わっていく。そうなると早かった、一気に日常が今までと引っ繰り返った。  順一は父が自慢だった。どう言われようが父が揺らぐことは無いからだ。 「世の中にはな、無くていい仕事なんて無いんだ。ゴミ収集なんてその典型だ。糞尿処理もな。この二つの職業が無くなればまず国は成り立たなくなる。それくらい世の中に影響を与える仕事なんだよ。恥ずかしいわけがあるか。そんなことを言うならゴミを出さない生活をしてみろってんだ」  だから自分が恥ずかしがっては父を裏切ることになると思った。そうならないために順一は真っ直ぐに生きようと頑張った。勉強も頑張った。  順一が折れなければ折れないほど嫌がらせは加速していった。机の引き出しへの生ごみ。置いている体操服がゴミ箱に入っていたり。順一は決してそれを両親に言わなかった。言ったら認めることになるような気がした。嫌がらせと感じたら負けだ、そう思っていた。
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