カジの物語(完)

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カジの物語(完)

   「梶野! 明日はどうする?」 「ああ? ……8時から並ぶ。今日はダメだ」 「俺はずい分稼いだ。ラーメン奢ってやるよ」  鈴木がパチンコの両替をするのを待って一緒に歩き出す。 「今日はついてたな! 座って1,000円で出たもんな。お前、幾らすったんだよ」 「2万。ここんとこついてねぇよ」  梶野と呼ばれた男が面白くなさそうに言う。 「嫁さん、何も言わないのか?」 「言われる前に家を出るからな」  鈴木は茶目っ気たっぷりに梶野の顔を覗き込む。 「可哀そうにな、パートで必死に働いてんだろ? お前も少しは仕事すりゃいいのに。俺でさえやってるぜ。週に3日だけど」  梶野勇吉、25歳。去年の夏まで通販会社に出荷する組み立て家具をトラックに積み込む作業をしていた。それほど給料は高くなかったが、れっきとした正社員。2つ下の妻早苗と生まれて1歳の男の子、勇太。それなりに幸せに暮らしていた。去年の夏のボーナスで、映りの悪いテレビを買い替えるつもりだった。  荷がトラックに載る前に崩れたのは梶野のせいじゃなかった。いくつもの品を一まとめに結束していたバンドが緩んでいたのだ。会社はボーナスも退職金も無しで梶野を放り出した。  結束機がイカレていたのが分かったのは梶野が会社を辞めてから1ヶ月後。会社はそれを隠した。    
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