洋一の物語(完)

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洋一の物語(完)

   幼い顔をしたその若い男は、雨水が下水に流れ込む側溝の上に顔をつけたまま倒れていた。 「カジさん、あれ!」  優作が気づいたのは奇跡だ。もう辺りは真っ暗で男は黒っぽい服を着ていた。ちょうど通りがかった車のライトが照らした方に優作の顔が向いた。土砂降りの中。雨水だけでも充分溺死できそうな雨量だった。 「おい! しっかりしろ!」  傘を放って優作は男を抱き起した。カジが自分の傘を閉じて優作に突き出す。それを受け取って自分の傘を拾った。カジが男の細い体を肩に担ぎ上げる。  優作は先に家に走った。 「おい! 誰か手伝ってくれ!」  緊迫した声にテルが飛び出してきた。続いてのんの。 「倒れてる男を拾った! 今カジさんが担いで来てるがこの雨だから」 「分かった! 案内しろっ。のんの! お前は手当ての支度しとけ!」  テルが優作の後ろを走った。 「こりゃひでぇな」  そんな声がぼんやり聞こえた。 「おれ……いきて、る?」 「気がついたのか? ああ、生きてるよ」  遠くから答えが返ってくる。 「いきてる……ちくしょ……」  それきり洋一はまた気を失った。  次に目が開いたのは翌日の昼。見えたのは木目の天井、ぶら下がっている蛍光灯。 「いて」  小さく呟いて顔を動かすと襖の開いた和室に寝かされていることが分かった。 「どこだ?」 「三途川の家だよ、ここは」  返事のあった方を見る。痛みにぎゅっと目を閉じた。 「大丈夫か? 無理するな、傷はかなり深いからな」 「きず…… あ」  しまった! という顔。 「事情、あるんだろ? なんで刺された?」  どきりとする。 (この男は誰だ? ここは? まさか通報されたんじゃ…… それともあいつらに捕まった? いや、それなら手当てされるわけ無い、姉ちゃん……) 「姉ちゃん!」  起き上がろうとした体に激痛が走る。 「だから無理するなって! いいか、今は動いちゃいけないって医者が言ってた。これ以上出血したら入院することになるぞ。お前、それ困るんだろ?」   
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