土曜日の男

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土曜日の男

「えらく花音は機嫌がいいな」 「さあ、多分ジェイくんがアイス買ってきてくれるって聞いたからじゃない?」 「そうか」  いつもジェイは三人の好きそうなものを買ってくる。たいがいアイスなのだが、花音の誕生日にはぬいぐるみ。前回くれたウサギちゃんは擦り切れるほどに花音は大事に抱えている。花月にはプラモデル。今時じゃないが、ジェイはずっとやって見たかったと言って、結局花月とわいわい一緒に作っている。和愛には花音と色違いのぬいぐるみ。  今週の土曜日は花と哲平とジェイの3人で集まる。ジェイが『毎週土曜に行こうかな』と言ってくれたのでほっとする。哲平といて生まれる沈黙に自分が耐えられない。 「今度からジェイが来る回数を増やそうかなって言ってたよ」 「ホント!? 哲平さん、喜ぶね!」 「今度また井の頭公園にでも行ってみようかな……みんなで行くってのはどうだ? ちょうど学校が始まる前だし」 「そうするとお弁当が大変!」 「……部長に頼んでみるよ。参加しないで弁当作ってくれって」 「わ! 可哀そう! 誘ってあげればいいじゃない」 「だめ。そうするとジェイが部長ばっかり見てるようになるから」  真理恵が畳んでいた洗濯物を脇に置いて花に腕を絡ませてきた。 「花くん、ありがとう」 「なにが?」 「二人のこと、受け入れたんだね。まさなりさんも喜ぶよ」 「……よくマリエはすんなりと受け入れたよな」 「だって、好きって気持ち、私と花くんのと変わらないでしょ?」 「そうだけど。正直、まだ二人が目の前で並んで座ったら複雑な気分になると思う。やっぱり時間、かかるよ」 「そうだね。ゆっくりやって行けばいいよ。花くんは花くんのペースで」 「そうだな……お前はダメだぞ、井の頭公園」 「ええ、なんで?」 「生まれるのは4月だろ? 無理して欲しくない。だから弁当も作るな。やっぱり部長に頼むから」 「しょうがないなぁ、花くんって心配性なんだから」 「今度の土曜も動かなくていいぞ、ジェイが来るんだから。あいつ、何でもやってくれるからさ。毎週土曜来てくれるんならいろいろ助かるな」 「会社で使って、ここで使う気?」 「あいつはイヤがるようなヤツじゃないよ」  でも、一番ジェイが来るのを待ち侘びているのは…… 知らぬが仏とはこのことだった。   
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