飛んでる新人

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   よく見ているとメンバーの色がそれぞれ濃い。いや、薄い色もいるのだが、極端に濃い人間がいるからその間に埋もれてしまうのかもしれない。  三途川は笑い方をよく見ていないと罠にかかる。あれほど仕事ができて先も見通せるのに、違う、先を見通すからこそ上手に悪魔のような悪戯をするのだ。  そこに行くと田中はずっと分かりやすいし仕事の話をしている限りは有能この上ない。一度田中チームの若本が田中のことで『課長のこと、ずい分なこと言ってましたよ。課長も大変ですねぇ、俺は課長の味方ですから』と言ってきた。バカかと思う。このオフィスがそれなりにまともなのは田中の存在による部分も大きい。 「田中は根拠のないことは言わない。それから悪口なら本人の前で言え。それもできないなら口を閉じとけ」  野瀬は天邪鬼だ。仕事は早いし効率もいい。時たまズケッと物を言うが、結構人を束ねる才能もあると思う。だがストレートに言ってはいけない。 「これ、いいんじゃないか?」 「そうですか? どこが? これ、ホントによく見えるって思ってんですか?」 「お前が手掛けたんじゃないか」 「あまり人のこと、信用しない方がいいんじゃないですかね。ミスあってこその人間ですからね」  言っているのはもっともなことなのだが。扱いにくい。だが憎めない。  そしてガンガン突き進んでくる池沢。頑固でまるで猪みたいで。そこに得体の知れない生物、哲平を預けた。例えようがない。  哲平が引っ越しの話をワイワイしているのが聞こえた。 (そうか、実家から独立か) 哲平を呼んだ。 「お前引っ越すのか?」 「はい! 自立するんです!」  誇らしそうに言うのについ笑いそうになる。哲平の前で真面目な顔を保つのはなかなかの試練だ。 「手続きはしてるか? 人事に書類は出したか?」 「出しました!」 「いちいち叫ぶな」 「普通に喋ってんですが」 「じゃ、普通以下に喋れ」 「喋った気がしなくなります」 「それくらいが俺にはちょうどいい。で、俺にその報告は無いが?」 「……引っ越します」 「聞いた」 「後は……」 「連絡先は? 今の携帯だけでいいのか?」 「はい、固定電話無駄なんで」 「住所は?」 「あ! そっか」 (やっと分かったか) 「地図も要ります? でも今回のゴールデンウィークに引っ越すんで、その後の週末がいいんですが」 「何が?」 「遊びに来るんでしょう?」 「……お前と話してると疲れるからメールで新しい住所を送れ。オフィスの連絡先に入れておく」  
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