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自我
学校はもちろん私立。幼小中高一貫教育だ。通う生徒は名立たる名士の子息、子女。だが蓮司はその中でも優秀だった。厳しい教育体制の中、物足りない顔をする蓮司を誇る兼介は、あえて高校受験を考えた。
私立優成高等学校。海外からの留学生も多く、学校は『応用、効率、機転』を基本に授業を進める一風変わった教育を行っている。それによって各人の資質を引き出し、何ものにも頼らず自己開発を続ける姿勢を養わせる。
トップランクで受験を突破した蓮司は校風にピタリと合い、自己形成に努力を惜しまなかった。
一つ下の弟諒と男兄弟らしく組んず解れつの日々を過ごしたのは、受験勉強が始まる頃まで。蓮司は勉強が楽しくて仕方なかったし、蓮司への父の期待は大きかった。自然、次男は優秀とはいえ偉大なる兄の前に霞んでいく。その頃から兄弟の間に溝が入り始めた。
決定的な亀裂が入ったのは諒の高校受験が認められなかった時だ。
「僕も頑張ります。兄さんのように外の高校に行きたいです」
それは認められなかった。
「お前は今のままでいい。大学はもう決めてある。そこを卒業したら蓮司の補佐になれ」
年齢だけじゃない。人生さえも常に兄の下に、兄の影に埋もれていく。頑張っても頑張りようが無い。決められたTOPは、兄蓮司なのだから。
だが、父は甘く見ていた。蓮司の自立心が育つのは早かった。昔は母を大切にしていた父が、母を妻として見なくなり始める。
『なぜ名家の令嬢と見合い結婚しなかったのか』
初めは親族のその言葉を頑として否定していた父は、いつの間にか周りに同化していった。母が正式な場に出ることが少なくなる。蓮司はそれが許せなかった。
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