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開発部と完成を争う。それを聞いて反河野派も顔つきが変わった。みんなこのR&Dに島流しになったと思っている。なんとしてでも開発には一泡吹かせたい。残業があーだこーだ言っていた連中でさえ熱心に仕事をした。
「課長、ほくそ笑んでいません?」
「俺はそんなに悪いヤツに見えるか?」
「もちろん! ヤクザより悪そう」
「三途川さんが言うと誉め言葉に聞こえるな」
三途川とは戦友になれそうな気がしている。正直なところ、今頼りになる相手は少ない。尾高は大丈夫だ。妙な話だが田中のこともあまり心配していない。自分の足元を掬おうとしているのは分かるが、仕事に誇りを持っている彼はチャチなやり方をして来ない。池沢も大丈夫だろう。後は気の弱そうな追従型の連中と、それを煽るろくでなし。新人は対象外だ。
(10月、戦闘が出来るような状態に持って行けるか…… いや、持って行くんだ)
そのためにも今回の仕事で弾みを付けたい。
大滝はどっちをアド・オフィスに納品するかジャッジすることになっている。手抜きは無しだ、これは商売だ。
何度か開発の方から声を掛けてくるが、河野は一切大滝とコンタクトを取ってこなかった。出来レースを望んでいない。
(本当に頑固だ、あいつは)
目の前の開発課長のおべんちゃらを聞き流しながらそんなことを考える。相手の息継ぎの瞬間に立ち上がった。
「まだ用があるのか? 昨日聞いた話に割く時間はないんだ。これから人と会う」
「申し訳ありませんっ、また改めまして」
「それより仕事をしたらどうだ? 今度はいいものが出来上がったという報告だけでいい」
「……はい、分かりました」
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