競う

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   9月14日。田中が蓮司を呼んだ。 「終わりましたよ。確認してください」 (すごいな…… 予想を上回った) 15日完成と言った言葉に、田中はさらに一歩追い上げたのだ。 「有難い、さすが田中さんだな」 「どういたしまして。面目は保てそうですか?」  勝ち誇った声に素直に頷いた。 「助かる。やっぱりここに来てもらって良かった」  仕事を褒められる。この会社に来て正当な評価を得た相手が『河野』だということに腹は立つ。だが田中は心地良さも感じていた。 (俺のプライドだ、あんたが言う期日、全部上回ってやる) その覇気が見える田中は仕事ではやはり信頼に足る男だと、蓮司は思っている。  中身のチェックも終わり、蓮司は報告書と製品を持って大滝の前に立った。 「いかがでしょうか」 「即席チームの仕事には見えんな」 「で、あちらは?」 「聞くのか? 知っているくせに。お前もだいぶ人が悪い」 「最近どうも私の評判は良くないようですね」 「気になるか?」 「敵対心だろうが蔑まされようが、相手にされているだけマシですよ」   
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