10月

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  「今だけだ。踏ん張りどころなんだ、手を抜くわけにはいかない」 「俺はお前がどういうヤツか知ってる。こうと決めたら折れない。だがな、折れた剣は元には戻らない。少しは自分をこき使うのを止めたらどうだ?」  隠れた頑固もんの尾高は引く気が無い。 「俺のことまで心配する暇があったら仕事してくれ。折れないし折れるつもりもない。三途川さん、いやならあんたも出て行ってくれ。残った者で仕事する」 (どいつもこいつも当てにならない、いい、俺がやる!)  新任の課長ということで、10月頭は挨拶回りと飲み会にも忙殺された。この忙しさで蓮司もだいぶ参っている。 「少なくとも尾高さんと私は課長から離れるつもりはないわ。どうしてケンカ売ってくるの?」 「吹っかけてくるのはそっちだろう!」 (しまった、これは)  言い過ぎだ、と思う間もなく頬が鳴った。 ――パーンッ!!  見事な平手打ち。思わず蓮司は目を見開いた。 「ガキじゃあるまいしいい加減になさい! 疲れてイライラしてるかもしれないけど自分の務め、投げんじゃないわよ! 若い子は連中に踊らされてるだけ。ここで手を放したらあの子たちは間違った育ち方をしてしまう。しゃんとなさい!」  出て行ってしまった後ろ姿を見送り頬を摩った。 「おい、大丈夫か!?」 「すごいな…… 目玉が飛び出るかと思ったよ」  徐々にくっくっと笑いが出てくる。 「河野」 「大丈夫だ、気がふれたわけじゃない。見事な一発だった。痛ぇ、あいつ思い切り殴ったな」  尾高を振り返る。すっきりしていた。 「済まん、心配かけた。もう大丈夫だ」  真っ赤な手形をつけたまま、蓮司はミーティングルームから出た。   
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