10月

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   自分の顔を見て固まった連中には目もくれなかった。 「さっきの7人。書類は4時までに俺に提出すること。塩崎、松山、有田。気持ちはよく分かった。後の4人、ミーティングルームに来てくれ」 「河野!」  思わず塩崎が呼ぶ。その顔をじろっと見た。 「いや、済まん。課長。俺は残ってやってもいい。このままじゃ課長も大変だろうし。異動は来年でも構わない」 (ホントにこいつ、めんどくさいな) 「好きにしてくれ」  蓮司はそう答え、4人をミーティングルームに引き入れた。  4人は引き攣ったような顔で立っていた。7月から一緒にいて(この人は危険だ)と分かっている。いつ怒鳴る矛先が自分たちに向くか、怯えながら仕事をするのは嫌だと思っていた。そこに塩崎から甘い誘いが来た。 『開発に一緒に行かないか? あっちの方が仕事は楽だぞ。君たちのような新人を粗末に扱っていいわけがないんだ、あいつのやり方は間違っている!』  それは救世主の声のように聞こえた。帰りにいっぱいどうだ? 奢るぞ。そんな言葉に、『職場のいい先輩』というイメージがついてつい従ってしまった。だがこうやって離れてしまえば自分たちではこの上司に何も言うことが出来ない…… 「どうした、座れ」 「はい」  か細い声で4人ともガタガタと椅子を寄せて座った。顔を上げられない、何を怒られるかと怖い。 「顔、上げろよ」  恐る恐る上げると、そこにいるのは頬に手形の跡がくっきりついた課長。 「すごいだろ、これ。お前らあの三途川チーフは怒らせるなよ。こんな風に女性から殴られたのは初めてだ」  
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