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本腰
ミーティングルームから出た蓮司は、塩崎がごちゃごちゃ言ってきたのをただ(うるさい)と思った。完全に無視して三途川と田中に後を任せ大滝のところに向かう。今日の打ち合わせに出るのはやめた。
(もう俺流にやっていく)
他の部署にあれこれ言われてそれに言い返し、自分だけが会社のことを考えて話せば『偉そうに』『若造が』『もう黙ってろ』という顔しか見えない。
(時間の無駄だ。やってられるか)
大滝は部長室を別に持つようになっていた。ノックをして「河野です」と声をかけると「入れ」と返事があった。
「失礼します」
「打ち合わせの」
大滝の声が止まった。マジマジと顔を見られて、(あ、まだ赤いのか)と頬を撫でる。
「派手だな。相手は誰だ?」
「三途川です」
豪快な笑いが響き渡る。
「なにやらかした?」
「向こうがやったと思わないんですか?」
「あれはなかなかいい部下だと思うぞ。そうか、やられたか」
「嬉しそうですね」
「まあな。それで打ち合わせすっぽかしてどうした?」
「もう出ません、ああいうの」
「大事な連絡事項もあったりするだろう。それはどうする?」
「俺にだって一人二人くらいの話できる相手はいますよ。連絡を頼んでおきます」
「さらに敵を増やすぞ」
「部長。だいたいその考えがおかしいんですよ。目的は社員ならひとつのはずです。会社の繁栄。営業利益が上がって初めて昇給だってボーナスだってそれなりになる。自分の大事な時間を提供しているんです。見合う報酬はしっかりもらえるような仕事こそを目指したいです」
「経営者みたいな言い方だな」
「R&Dという部署の運営者です。ちゃんと働く部下に正当な評価と対価をいただきたい。そのためには下らないものは排除したい。ウチの部署から2人が異動願いを出してきます。さらにせっかくだからもう1人出したいです。受けてもらえますか?」
大滝の顔が渋くなった。
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