本腰

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  「もう離反組を追い出すのか? 堪え性が無いな」 「他のものに悪影響を与えるからです。3人にそそのかされて新人4人が同じように異動願を出そうとしました」  さすがに眉間にしわが寄っている。 「お前大丈夫なんだろうな?」 「ご心配ですか?」  にやっと笑う。自分をこの立場にしたのは大滝だ。今さら下ろせるものなら下ろせばいい。だが大滝はその笑い方に安心したらしい。 「分かった。打ち合わせの件、異動の件、頭に入れておく。その代わり情報不足での仕事への影響は許さん。欠員への補充も出来ない」 「結構です。不要な人間がいない方がよっぽど仕事がはかどります。異動の正規の手続きはちゃんと踏みます。理由に上司のパワハラと文字が入るでしょうが、そのまま出しますので」  もうガタガタ言わせる気はない。それと同時に、力で抑えつけるのは無意味だと再認識した。必要なのは力じゃない。船に例えるなら船長は揺らいではいけない。嵐が目の前でもまるで快晴のように振る舞わなければ。 (余計なものは全部取っ払う。俺は上長だ、お飾りでもお山の大将でもない。従わせたいなら従ってもらえる実力を積むんだ)  最初に決めた通りの軌道に戻り、貫く。虚像から実像へ。もう港を出たのだから。  11月。異動願いを出さざるを得なくなった松田、有田はそのまま受理され施設管理課に配属となった。元々が施設管理ならどうということはないが、開発から来たのだ。同じ課の中でさえ奇異の目で見られ『落ちてきた二人』と陰で言われる。島流しだと二人で自棄酒を煽ったがもう遅い。恨むのは蓮司じゃない、塩崎だった。  塩崎は異動願を出さなかった。だから蓮司から3人で呼び出され異動の希望が通ったと言われた時、信じられない思いだった。 「俺は異動願いを出してない!」 「そうだったか? だが通った。文句なら人事にでも言ったらどうだ?」 「お前! これは横暴だ!」 「毎度その言葉は聞いている」 「職権乱用だ!」 「なら上に言えばいい。通したのは上と人事だ。飛ばす権限を持っているのもな」 「河野!」 「さっさと異動先に挨拶に行った方がいい。多少は心証が良くなるかもしれない」  塩崎の異動先は総務。他の二人よりよほどマシだ。だが塩崎のプライドは開発から遠ざかることを許さない。 「せめて開発部に」 「一応それを聞いた、3人分。だが向こうじゃお断りだそうだ。俺はやることはやったんだ、後は自分たちの蒔いた種だろう」  
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